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書評/移転価格税制執行の理論と実務・本庄資編著

2012年04月02日 税のしるべ 無料公開コンテンツ

評者・川田剛(明治大学大学院グローバルビジネス研究科教授)

 国際化した企業にとって税務における最大の関心事は何か?
 この質問に対する回答の大部分は「移転価格税制」ということになるのではなかろうか。
 それは、移転価格税制がすべての企業にとって関係する税制であるということだけでなく、執行面でも多くの問題を抱えているためである。
 例えば、外国子会社合算税制(いわゆるタックス・ヘイブン対策税制)であれば、対象となるのは、原則として軽課税国に進出している企業のみである。
 しかも、その場合であっても、現地においてしっかりした事業活動をしていれば、適用除外規定の存在などにより、同税制の適用を受けることはなくなる。
 また、過少資本税制や平成24年度の税制改正で導入が予定されている過大利子支払規制制度(仮称)にしても、過大な借入金さえなければ規制の対象とはならない。
 それに対し、移転価格税制においては、国外関連者との間のあらゆる取引が規制の対象となるばかりでなく、場合によっては、国外関連者との取引がなくても、国外関連者への寄附金課税等により課税問題が発生してしまう。
 移転価格税制には、もうひとつ厄介な問題がある。それは、この税制が適正な取引価格という抽象的な概念をベースに課税を行うこととしているため、執行面において納税者と税務当局の間で見解が異なり、トラブルが発生しやすいという点である。
 特に、独立企業間価格の算定方法の選択や差異の調整方法等について多くの問題が生じている。さらに、我が国独自の問題として、シークレット・コンパラブルをめぐる問題も多発している。
 これらの問題の多くは、租税条約に規定する相互協議によって、国際的には一応解決が図られている。
 しかし、最近では、途上国との間の案件が増加してきていることから、相互協議で合意に達することができなかったりするケースも散見されるようになってきている。
 本書は、国税庁や財務省主税局でこの問題に携わって来られた人たち、及び現在その任に当たっておられる方々が執行の合間に書かれたものを一冊の本にまとめたものである。
 全体で1000ページを超える大作であるが、いずれの執筆者も、それぞれの分野での第一人者である。
 第1章では、移転価格税制の沿革及び現状について、欧米諸国だけでなく、中国、韓国といった我が国にとって関係の深い国についても言及がなされている。
 続いて、第2章、第3章及び第4章では、国際法及び他の国内法との関係について、国際収支統計等も踏まえた上で多方面から検討がなされている。
 第5章及び第7章は本書の中核をなす部分であり、第5章では、移転価格税制の執行の現状と問題点について多面的検討がなされている。第6章では独立企業間価格の算定方法について、米国やOECDの考え方等も参考にした上で問題点の分析がなされている。
 第7章では、移転価格調整と紛争解決方法として、相互協議及び国内法で規定する救済手続について、問題点の解明と解決策が模索されている。
 第8章は最終章で、最近急速に注目されるようになってきている途上国との間のトラブルの現状、及びその解決策としての事前確認制度の利用可能性についての分析検討がされている。
 分厚い本で一見とっつきにくい印象を受けるが、内容的に多岐に渡り、かつ、最新の情報が多数盛り込まれた良書である。ぜひ一読をお勧めしたい。

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