書評/失敗事例から学ぶ事業承継対策・相続対策(山田コンサルティンググループ㈱他編著)
2020年10月12日 税のしるべ 無料公開コンテンツ
評者・川田剛(大原大学院大学客員教授・税理士)
実務に携わっている人ならだれでも経験するのが失敗である。神様であればともかく、生身の存在である人間として失敗は避けがたいことでもある。その際、誤りをカバーしてくれるのが税理士損害賠償保険制度である。しかし、より大事なことは、失敗から学び、同じ過ちを繰り返さないことである。もっと有効な予防策は、他人の失敗事例から学び、あらかじめそれらに備えることである。
今般発刊された「失敗事例から学ぶ事業承継対策・相続対策」では、失敗事例として60事例(うち事業承継対策関係39事例、相続対策関係21事例)が紹介されている。
しかも、各事例において、「なぜ失敗したのか」についてその原因究明がなされているとともに、「こうすればよかった」の部分では、失敗事例を踏まえ、講じておくべき措置等が分かりやすい形で紹介されている。
所得税や法人税などのように経常的に発生する税であれば、特定の期間における損益計算が誤っている場合であっても、前期損益修正等の形でそれらの誤りを事後に修正できる可能性が残されている。
しかし、事業承継や相続税のような分野においては、基本的には生涯で一回あるかどうかである。それだけに失敗が許されないレベルは他に比して極めて高いものがある。
本書は、今から10年以上前(平成17年1月)に発刊された書籍「失敗から学ぶ相続税対策・相続税申告」に、その後における新しい事例を追加したものである。執筆陣は、相続税の分野で数十年にわたり実務に従事し、その間、テレビや講演会等でも活躍しておられる布施麻記子税理士を中心に、日常的に事業承継対策や相続対策に関する相談に応じている山田コンサルティンググループ、税理士法人山田&パートナーズ及び司法書士法人山田リーガルコンサルティングの諸君である。
そのため、事業承継対策や相続対策について、税務面だけでなく、法的な側面等からの検討もなされている。さらに、必要に応じ、「参考」欄で相続時精算課税制度、事業承継税制、配偶者居住権などといった、法的側面等からのフォローアップがなされている。また、「コラム」欄では、さらに突っ込んだ形での解説がされており、実務に使いやすい形となっている。
このように、本書は全体で200頁強というコンパクトな構成でありながら、実務に役立つ情報が豊富に含まれていることから、実務家にとって使い勝手が良いものとなっている。
なお、本書は、事業承継を考えている人や近い将来相続が発生すると思っておられる方、さらにはコンサルタントや税理士、司法書士を目指す人たちにもお勧めしたい良書である。
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