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書評/それからの特攻の母・伏見俊行著

2013年08月26日 税のしるべ 無料公開コンテンツ

評者・川田剛(前明治大学大学院グローバルビジネス研究科教授・税理士)

 若い人たちにはあまり知られていないかもしれないが、中年以上の世代の人たちにとって『知覧』と聞けばすぐ思い出されるのは特攻隊の出撃基地としてのそれである。
 まだ、10代、せいぜい20代前半の若い人たちが、敗色濃厚な戦況の中、国のために尊い命を捧げた、そのような厳しい状況下におかれていた出撃前の特攻隊員から母のように慕われていた女性がいた。それが本書で紹介されている鳥濱トメさんである。
 しかし、その彼女が戦後、税務行政に多大な貢献をし、「納税おばさん」と称されるまでになっていたことを知る人は、税務職員の間でもそれほどいない。
 本書の著者(伏見俊行氏)は、先般、金沢国税局長を最後に国税庁を退官されたが、最初の地方赴任地が知覧だったことなどもあって、トメさんの親族に直接出会って話を伺うことができたことなどから本書の執筆を思いつかれたとのことである。
 たまたま、評者は伏見氏が知覧税務署の署長に赴任される直前、国税庁の国際調査管理官として同勤する機会があったが、当時から気配りの行き届いたナイスガイであった。
 また、その後は国税庁の国際関係の部局を中心にサンフランシスコ、インドネシア、中国にも駐在されるなど幅広い分野で活躍されたが、その原点となったのが知覧での経験だったことは本書を読めば明らかである。
 本書の一部は、平成25年7月まで「税のしるべ」に連載されており、ご承知の方もおられると思われるが、それ以外に追加された興味深い挿話が盛り込まれている。
 なお、本書には参考資料として終戦直後における青色申告制度や納税貯蓄組合制度の創設に関する経緯等が付されており、税務行政史としての側面も有していて、是非、一読をお勧めしたい好著である。

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