書評/アメリカ税務手続法・カミーラ・E・ワトソン著、大柳久幸ほか共訳
2013年11月25日 税のしるべ 無料公開コンテンツ
評者・川田剛(前明治大学大学院グローバルビジネス研究科教授・税理士)
海外税制というと課税標準の計算等に目が行きがちである。しかし、税務執行手続及びそれに従わなかった場合どのようなペナルティが付加されるかといった分野についてもそれに劣らず重要である。
特に、最近では、移転価格税制における文書化や国外財産調書などにみられるように、近年税務執行分野の重要性が増してきている。
本書は、米国における調査、徴収、争訟、犯則手続の制度と実務について書かれた概説書(TaxProcedureandTaxFraud)であり、米国のロースクールでは必読の書籍とされている。
評者もかつてこの本を読み、その内容の斬新さに強い印象を受け、例えば大蔵財務協会刊「租税法入門」などいくつかの著書に引用した。今回、このような訳書が刊行されたことにより租税法を学ぶ人たちに大きな励みになると確信している。
本書は、全体で19章で構成されている。第1章及び第2章では連邦税制について、財務省と内国歳入庁(IRS)及び司法省(DoJ)の役割にも触れながら概観したうえで、財務省とIRSの規則制定手続等について簡単な紹介がなされている。
次いで第3章及び第4章では、税務代理業務を中心に、倫理基準(Circular230)や現金取引報告義務及びIRSの保有資料の開示に関する説明がなされている。
第5章及び第6章はコンプライアンスについて、また、第7章では更正と時効について述べられている。
第8章及び第9章では還付請求権について、時効も含めたところで解説されている。
第10章はペナルティについて述べられており、第11章から第13章では、これまでほとんど紹介されてこなかった租税徴収手続について倒産との関係、第三者納付等も絡めながら説明がなされている。
第14章と第15章では租税訴訟について解説されている。第16章以下は脱税等といった刑事手続について、第16章では脱税調査、第17章サモンズ(召喚状)、第18章連邦租税犯罪、第19章では納税者側の弁護手続について説明がなされている。
この本を和訳するためには、単なる学問的知識のみでなく税務における相応の実務経験を有していることが必要である。然るに、国際調査の担当官等であっても、例えば徴収手続や脱税調査を中心とした刑事手続に関する経験者はそれほど多くない。そのため、将来的に時間ができれば評者自身で和訳を試みてみたいと考えていたところであった。幸い今回このような形で当局の実務家による本が刊行されることとなった。
税務調査について法制化がなされたことなどにみられるように、わが国でも最近この分野に対する関心が高まってきている。このような状況において刊行された本書は、実務家のみならず会社の税務担当者、研究者、これから租税法を勉強したいと考えている学生諸賢にも、是非手許に置いておかれることをお勧めしたい良書である。
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