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書評/ハイド アンド シーク2・伏見俊行著

2019年06月03日 税のしるべ 無料公開コンテンツ

 評者・浜中 秀一郎(日本‐インドネシア税務交流会特別顧問・元駐ポルトガル日本国大使)

 『ハイドアンドシーク2』が出版された。その舞台は主にインドネシア、イギリス、シンガポールであるものの、いわば世界を舞台にしているといった方がいいだろう。ストーリーは1998年のジャカルタ暴動から始まる。道路は閉鎖され、警察、軍隊が動員され、秩序の回復が図られる一方で、市内各所から黒い煙が立ち上る。税務職員の和田准一にこれからどんなドラマチックな事件が起こるのだろうと読者はきっと驚くともに、期待するに違いない。
 前作に引き続き、国際的租税回避を企むコンサルタントは全世界を舞台に日本、インドネシアなど各国の税務当局に対決を挑む。インドネシア国税総局の顧問として派遣されていた和田がその租税回避行為を追う。インドネシアへ赴任した税務職員が種々の困難を経て、インドネシア税務職員との信頼関係を築いていく一方、受注工作資金捻出に絡む不正取引、移転価格取引を利用した租税回避行為など、インドネシアをはじめとした諸外国を舞台にした国際的租税回避行為が進行する。ここから先は、読者にお読みいただくのがいいだろう。
 この小説はフィクションであるが、そこに語られる事柄は類似する多数の租税回避行動とそれを追う税務調査官のつば迫り合いを見事に表しているものである。最近、警官の活躍する小説や弁護士モノ、銀行員モノ、医者や外科手術モノなどの小説や、テレビドラマに接する機会が多くなったが、一般の税務モノは悪い奴らがいるという程度である。しかし、この小説は物語りの広がりや奥行きの深さが飛び抜けている。
 例えば、新興国における税務行政の動きを当局内部の視点で紹介し、国を問わず税務職員の熱意、努力、もちろん苦しさも描かれている。「税のしるべ」を読む税務関係の人々にとどまらず、海外進出企業をはじめ多くの方々に読んでもらい、考えてもらうとよいと思う。
 ハイドアンドシークの第1作はアメリカのサンフランシスコを舞台に、国際的租税回避を企てるコンサルタントとそれを追う国税調査官の対決をテーマにしており、読者の中にはこのような租税回避行動は先進国の問題と思ってしまっていたかもしれないが、第2作でインドネシアなど南側の国々も含めたグローバルな今日の人々に関わる重要性に気づかれることであろうし、それが著者の伝えたいことであると思われる。「ハイドアンドシーク」は隠すと追うであるが、日本風に言うと「かくれんぼ」である。面白い題と言うべしだ。
 著者の伏見俊行氏は、1990年代に国税庁国際業務室課長補佐として中国、インドネシアなどアジア各国税務当局とのパイプ作りに携わった方である。当時、私は、著者と一緒にいわば国際戦略を練り、実行していった間柄である。今回の『ハイドアンドシーク2』は、自らインドネシア国税総局顧問として赴任し、現地での貴重な経験が生かされて、書かれたものである。伏見氏は、これまでの経験を生かして現在大学教授として教育、研究を行う傍ら、日本―インドネシア税務交流会の代表も務めている。引き続き、小説の分野での活躍も期待したい。


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