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書評/ハイド アンド シーク・伏見俊行著

2017年08月21日 税のしるべ 無料公開コンテンツ

 評者・川北力(損害保険料率算出機構副理事長・元国税庁長官)


 伏見俊行氏は多才異能の人である。

 私は、伏見氏が国税庁で国際業務と大企業調査の指揮を執っていた2010年、11年に同勤したが、氏は税務行政のグローバル化を担うとともに、「コーポレート・ガバナンスとの連携」に端緒を開いた。いずれもその後の税務行政の中で大きく展開しているところだ。

 伏見氏は、本書の舞台となったサンフランシスコでの勤務だけでなく、中国中央財経大学教授やインドネシア国税総局顧問の経験を通じて、各国税務当局等に人脈を築いていた。また、NHKドラマ『チェイス(国税査察官)』制作の仕掛け人だったことも「知る人ぞ知る」だ。退官後は、大学教授を務める傍ら、『それからの特攻の母』を上梓し、鹿児島・知覧で特攻隊員の世話をした「特攻の母」が戦後「納税おばさん」として社会に貢献したことを我々に教えてくれた。さらにそれを朗読劇に発展させ、「原作者兼プロデューサー兼出演者」として全国を回っておられる。税務官僚としては類いまれな行動力と発信力の持ち主だと思う。

 さて、本書『ハイドアンドシーク』(HideandSeek=「かくれんぼ」の意)は、1980年代から90年代、国税庁からサンフランシスコに長期派遣された国税調査官を主人公として、当時の国際税務の模様を小説仕立てにしたものである。内容はフィクションとのことだが、筆者の勤務経験は主人公の現地生活や市内風景の描写に活かされているのだろう。ストーリーの詳細に言及するのは避けるが、税務コンサルタント、美しい女性会計士、老紳士など、主人公に近づいてくる人物は謎めいており、小説としてなかなか読ませる。

 筆者の本意はもちろん読者に国際税務についての関心を深めてもらうことにあるだろう。物語の中に移転価格税制等の基礎知識を盛り込むほか、巻末に国際課税の現状と課題についての筆者の解説がついているなど、教養書として工夫されている。ぜひご一読をお勧めしたい。

 なお、本書は、舞台がふた昔以上前のことなので、最新の国際税務問題に関心のある専門的読者には少し物足りないかもしれない。ご承知のように、現在では、国際的租税回避のスキームが非常に複雑化・先鋭化し、BEPSやパナマ文書等にみられるように国家レベルの大きく深い課題を生じさせている。したがって、筆者には、発展目覚ましいアジアを舞台に、国際税務の「いま」を映し出すような、『続・ハイドアンドシーク』の執筆を期待したい。よりエンターテインメント性を強めるのか、専門実務に傾斜するのか、多才な伏見氏はどちらでもいけそうである。

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