書評/国際課税の理論と実務~73の重要課題・本庄資編著
2011年10月31日 税のしるべ 無料公開コンテンツ
評者・富岡幸雄(中央大学名誉教授商学博士)
国を捨てた巨大グローバル企業の海外逃避で日本の富と税源が失われ、財源が枯渇し財政赤字を招いています。日本企業の海外進出、海外投資、海外取引は、ますます活発化し、国際的な脱税のほか、タックス・ヘイブンの悪用、トランスファー・プライシングの濫用、外国税額控除の拡大利用、策略的なタックス・シェルターやマネーロンダリング等による目に余る税金逃れが横行しているからです。国際的な租税回避をいかに適確に規制するかは、税制と税務行政上の難題ですが、緊急に解決を要する国家的使命です。
この難題に明確なる解決と、そのメルクマールとなる画期的な大著『国際課税の理論と実務』が、世界的に高名である租税学の大家であられる本庄 資先生の編著になる見事な業績として刊行されました。
日本の租税法で用いられる多数の不確定概念が法解釈の幅を広げ、その意義を確定するため裁判で争わざるを得ない事例が多発していますが、国際課税の分野でも多国籍企業や富裕層が各国の税制やその概念の違いを利用して税負担の減少を企画するタックス・プランニングを実施し、課税権の確保をしようとする各国の課税庁との間で紛争を生ずることが多いのが実態です。日本では課税ルールの明文化が遅れているからです。納税者に法的安定性と予測可能性を保障する租税法律主義の原則は、国内取引のみでなく、国際取引についても求められていますが、国内租税法も租税条約もそれが不完備であるために、そのような保障は容易に得られないのです。そのため、そのような状態をタックス・プランニングでは逆に利用するわけです。
本書では、現在、国際課税の分野で議論される最先端の73の課題を選び、議論の多い基礎概念、課税原則の理論とその執行、ループホールを利用する租税回避に対する主要国の防止策、見解の相違をめぐる課税紛争の解決策、一国では対処できない脱税・租税回避に対する国際的協力などについて、優秀な新進の研究者や国際課税の実務に携わっている当局の高い地位にあるリーダーがその研究の成果を競って論文としてまとめておられます。これは類書のない誠に貴重な新しい構想です。
巷間、国際課税について現行制度の解説やOECDの議論・報告書の紹介、諸問題の指摘に止まる書籍は多いのですが、本書の各執筆者は、精選された課題について難解な制度を分かり易く説明し、議論を生ずる背景を明らかにし、具体的な問題点を指摘したうえ、詳細な検討を行い、諸外国の制度を参考にその解決策について明確に積極的な提言をしてくれているのはありがたいことで高い評価に値すると思います。
国際課税の研究者や国際税務に携わる人にとって、本書は「税の競争」のため多種多様な租税優遇措置や租税条約の特典をオファーする各国の課税ルールを利用すること、税収の確保のため当局が租税回避防止規定の強化を図る各国に関する事案を扱う場合によき指針となる必読の書であると確信します。
世界的スケールでの国際課税問題の解決に輝かしい光を照らす雄大な快著が公刊されたことを喜び、本庄先生をはじめ、ご執筆の先生方と出版社に心から敬意を表します。
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