贈り物の差出人は書かれていなかった。しかし、根拠はなかったが、和田は直感していた。贈り人は三浦賢であろうと。あれ以来音...
和田は、初めて老紳士に日本での過去を聞こうとした。  「日本では何をなさっていたのですか...。どちらにお住まいでした...
「どうでしょうか。しかし、私は金門橋に行ったおかげで、新しい友人と会うことができた。縁をいただいた。それで良いではない...
東山はソファーから立ち上がると、窓の外に広がるサンフランシスコ湾を眺めながら、三浦のことを考えていた。湾は以前と変わら...
1990年、新岩から脱税資金のマネーロンダリングの相談を最初に受けたのは、実は三浦ではなく東山であった。東山は三浦に知...
事務所では、東山メグミが待ち構えていた。  「和田さん、三浦はこの事務所を辞めました。突然の退職であり、レター一枚が送...
和田の推測は正しかった。というより、和田の想像を越えて三浦は移転価格事案に関与していた。実は三浦の最大の租税回避指南の...
和田にとって一番難しい仕事は、実は現地の日本企業の反応と対応についての情報収集であった。  2年間、現地に滞在すればそ...
(第4章までのあらまし)  1991年夏、国税庁から米国に長期出張者として派遣された和田準一は、租税回避指南を行う税務...
新岩が税関申告書とパスポートを税関職員に手渡すと、税関職員が新岩に言葉をかけてきた。  「その手荷物を拝見させてくださ...
三浦は静かに答えた。  東山は一瞬疑念を感じた。税負担の回避をするつもりがないのであれば、わざわざ税務当局から疑いを持...
三浦は静かに答えた。  「今の税務当局には、海外を転々とする資金の動きを追う方途はありません。日本から米国、あるいは香...
後日談であるが、和田には、高額な救急車使用料、救急病院での治療代、宿泊費用の請求書が届いている。自動車事故の被害を補償...
23時45分過ぎ、和田はビル屋上の駐車場へ移動し、車の中で飛行機の離陸を待っていた。  車の中で待機を始めて間もなく、...
国税庁幹部は語気を強めて続けた。  「三浦が指南したと思われる国際的租税回避のスキームは必ず正す。その前に、まず彼自身...
三浦は、脱税や違法な租税回避行為には加担しなかったが、唯一、新岩の脱税行為には関わっていた。当時、三浦にはその行為に加...
国税庁幹部は、その足で空港へ向かいワシントンへ発った。  国税庁幹部と和田が事務所を出ると、三浦は窓越しにサンフランシ...
国税庁幹部は三浦の顔色をうかがいながら話を続けた。  「一つは、日本の地上げで得たバブル資金をサンフランシスコに持ち込...
数日後、国税庁の担当職員から和田へ指示が届いた。  「2週間後に国税庁の国際担当幹部が米国ワシントンDCで開かれる会議...
前日の10月17日夜、ルイジアナ州バトンルージュに留学していた服部剛丈(よしひろ)君(16歳)は、寄宿先の米国少年とと...
「人も、世の中も、外国のことも、一面を見て、人づての話を耳にして、決め付けるものではありません。批判すべき相手にも、社...
和田は三浦の話を聞き不愉快になっていた。それまでいろいろと親切に助けてくれた三浦だが、こういう考え方の人物だったのかと...
「わかりました。ご都合のよい日に伺います」    「もちろんです。では失礼します」  三浦は、店で和田と出遭ったときと...
コンサルタントの名前を聞き、和田は固まった。  「三浦賢」   和田は瞬間三浦の顔を思い浮かべていた。どういうことかと...
国税局調査部の調査官は、もう一点重要な調査情報を部内に持ち帰っていた。それは、湖島社長が湖島産業とはビジネス上の関係が...
湖島産業の関連会社、レーク・アイランド社の留保所得については20億円の減少、税額にして10億円程度の減少であった。また...
直後、湖島英明は取得した湖島産業株を時価100億円で香港子会社レーク・アイランド社に譲渡した。この譲渡により湖島英明は...
タックス・ヘイブン対策税制が導入されてから10年間、湖島は税負担もやむなしとして日本での納税を続けていた。しかし、税を...
(第3章までのあらまし)  1991年夏に米国サンフランシスコに国税庁から派遣された和田准一は、税務コンサルタントの三浦...
「入出国管理局に確認した情報を提供する。代表者新岩洋は1991年8月3日、米国サンフランシスコ空港から香港に向けて出国...
翌日、東山は三浦に報告した。  「和田さんは、まだ三浦さんのことを疑っていません」  和田が女性会計士と会っていた頃、...
和田が約束した時間に車で向かうと、東山がオフィスビル前の路上に立っていた。  東山は言葉を交わすこともなく和田の車の助...
「アメリカでは治安が悪いために、自己防衛として荷物を自分で守る姿勢が徹底していますが、日本の税務職員は別の理由ですね」...
うっとりする景色を眺めながら新鮮なシーフード料理、そしてカリフォルニア・ナパバレー、ソノマバレーのワインを堪能しながら...
「今日は、わざわざお越しいただきありがとうございました。この後、食事の予約をしていますので、ご一緒してください」  突...
ロサンゼルス暴動が静まり、しばらく経った頃、和田は三浦に事務所訪問の約束を取るための電話を掛けた。  「三浦さん、先日...
「日本の明治維新もある意味で、既得権を持った旧体制とそれ以外の人々の格差問題が根にあった。幕府の崩壊、武士の特権の剥奪...
ロサンゼルスの街に広がる炎、めちゃくちゃに壊された商店、さらにサンフランシスコ市内でも暴徒が我がもの顔で店を襲い、食料...
その日、和田は実態確認のため、サンフランシスコの対岸にある大学の街、バークレー市を訪れていた。確認依頼を受けたオフィス...
その日の夕方、耳慣れない言葉が繰り返されていた。メディアの音声も、街の人々も緊張した口調で叫んでいる。英語の意味は分か...
「日本人はルールを守ろうとします。そのうえでルールが不明の場合でもドアを押して相手に迷惑がかかることを避けるために、慎...
バブル時代の日本では、ゴルフは高額な遊興あるいは接待手段であり、公務員にとってはゴルフ場を訪れることだけで疑いの目で見...
「そして、会社組織のM&Aや再編などの資本取引を利用した方法が租税回避の手法として使えるかもしれない。この方法は金額も...
三浦のオフィスはサンフランシスコ湾を見下ろすダウンタウンにそびえる超高層ビルの高層階にあった。窓からは左に金門橋、正面...
老紳士は劇場の中央をゆっくりと歩を進め舞台の前で振り返り、老紳士の後を追ってきた和田に再び静かに語り出した。  「一つ...
やがて、市庁舎近くにあるオペラハウスに到着した。  オペラハウスでは、しばしばオペラやクラシック音楽、ミュージカルなど...
「和田さん、お早いですね。近頃の若い人には珍しい」  和田は少々戸惑いながら答えた。  「社会人になってから、約束時間...
「あなたは、たしか金門橋でお会いした方ですね。お久しぶりです。再会ということになりますか」  和田は思った。(いや、再...
三浦は、日本から来た企業家に米国での投資事情などについてしばしば話をした。  ある視察団に研修を行う際、折角の機会とい...
(第2章までのあらまし)  1991年夏、国税庁から長期出張者として和田准一は米国に派遣された。赴任直後、和田は国税庁か...
この種の話になると、和田は聞き役に回るしかなかった。三浦はそれまでのソフトな雰囲気から少々強い口調で話し始めた。  「...
「すごいでしょ。これをお見せしたかった。ここがサンフランシスコの中国人街です。西半球で最大の中華街と言われています」 ...
「今日はおもしろいところへお連れします。ちょっと歩きますがお付き合いください」  和田に断る理由はなかった。  ホテル...
「ええ、家族が間もなく到着しますので...。先日は大変お世話になりました。お礼もしないで...。では...」  急ぐ気...
「米国での投資物件はパシフィックグローブの土地付き住宅、カーメルのゴルフ場、ナパバレーのワイナリーという未確認情報を得...
部屋中に緊張が走った。皆が課長補佐に気合を入れられた気分となった。  課長補佐の発言は、当時の国税組織の海外取引調査に...
「あの方は、...赴任2日目に金門橋で会った人だ。間違いない」  車を降り、その老人を追うように再びワイナリーに戻った...
フリーウェイ101を北上しサンフランシスコ市内を通り抜けてベイブリッジを渡る。対岸のオークランドから再び北上し1時間余...
和田は国税職員という職業柄、酒は嗜んだが、もっぱら国内党であった。ワイナリーを訪ねるには、ワインについてある程度の知識...
「あの方の知り合いですか。気の毒にね...。だいぶ前になりますが、あの方、ここに来ましたよ。結構金を持っているみたいで...
モントレーの町から海外線を南下していくとすぐに高級邸宅が並ぶパシフィックグローブの地域になる。この地域からカーメルに至...
国税庁の指示はなかったが、和田は行動を起こした。  国税の職場に入って以来、繰り返し上司や税務大学校で受けた指導があっ...
最後に国税庁の担当官は一言付け加えた。  「ただし、回答は急いでください」  和田は、その日のうちに最低限米国子会社の...
国税庁からの指示文書は更に続いた。  「ちなみに、米国子会社は、カリフォルニアのモントレーに隣接するパシフィックグロー...
生活基盤も整い、仕事に専念できるようになった頃のある朝、日本の国税庁から情報収集の指示が来た。  米国は4月から10月...
(第1章のあらまし)  1991年夏、国税庁から長期出張者として和田准一はサンフランシスコに派遣された。赴任直後、ゴール...
「タックスヘイブンを利用する」  三浦の言葉に社長が反応した。  「タックス・ヘブン...? 税金天国ですか」  頭に...
「税の負担を減らす方法はいくつかあります。節税、合法的な租税回避、そして脱税。実は、私はもう一つの分類があると思ってい...
三浦賢は世界的な大会計事務所のサンフランシスコ事務所に勤務していた。  話は2年ほど前、1989年秋にさかのぼる。この...
二人は坂の街、サンフランシスコの名物通りであるロンバート通りを車で下りた。つづら坂のくねった道を右、左と鋭角にハンドル...
男は突然空を見上げ背伸びをしながら声を上げた。サンフランシスコは晴天であった。  「あんまり緑が美しい。今日これから....
足の悪い和田を気遣い、男は車を運転しながら、街の説明を続けた。シビックセンターからマーケット通りに出て、間もなく不思議...
和田の答えに応ずることなく、再び男は問いかけた。  「お仕事ですか。赴任されたのですね」  和田の様子で転勤してきたこ...
「おまえが殺した。国税がやった」  ただの夢か、何かの暗示だったのか。後々まで和田の心に残る夢であった。  そして、も...
「だめだな。おそらく遺体も上がってこないだろう」  昨日の老紳士の言葉を思い出しながら、暗く重い海を見つめていた。その...
警察に、救助に向かう様子はまったくなかった。しかし、和田も今更これ以上の問答をしたいとも思わず黙っていた。後に、米国生...
その後、ロサンゼルス、香港、シドニー、シンガポールなど、税務上の必要性の高い世界各地に国税調査官が派遣され、現地の一般...
金門橋は大きな橋である。投身を図る男までの距離は1キロ近いかもしれない。ついに男は、橋上から身を投じた。誰も何もできな...
金門橋の袂の公園には石碑が建てられていた。石碑には「1937年建立」と書かれていた。1937年と言えば昭和12年、日中...
プロローグ  「米・国税庁が米国日本子会社に追徴金(1978・11)」「米国日本車に過少申告容疑(80・2)」「日米税...