太陽、海、サザンオールスターズ……自由でお洒落なイメージの湘南エリア。湘南で唯一の造り酒屋、神奈川県茅ヶ崎市の熊澤酒造も、洒落た立ち寄りスポットとして人気を集めている。緑豊かな敷地には日本酒蔵、ビール工房、パン工房、トラットリア、和食店、カフェなど趣のある建物が並ぶ。これらは全て6代目蔵元の熊澤茂吉さん(51歳)が、大正期の酒蔵を改修したり、古民家を移築してリノベーション。蔵元は湘南らしい趣味人としても名高い。

日本酒「天青」は主に首都圏で支持されている。特にアルコール度低めの夏限定の純米吟醸は、夏と湘南、味の印象が合致して大ヒット。また蔵の敷地に残る防空壕で一年以上熟成させた純米酒は、ぬる燗が旨い左党の垂涎の的だ。ビール工房で醸す「湘南ビール」も、無濾過、非加熱によるピュアでフレッシュな味が評判だ。中でも私が愛する黒ビール「シュバルツ」は、2008年にワールド・ビア・カップでゴールドメダルを受賞した逸品。うっとりするほど香ばしく、旨味と甘みが心地よく、後口は爽やか。独バイエルン地方発祥のビールなので合わせるのは豚肉。肩ロースと林檎をこんがり焼き、粒マスタードをつけてパクリ、「シュバルツ」をゴクリ。ああ、極楽
1872(明治5)年創業の酒蔵の長男として生まれた熊澤さんは、家業に魅力を感じず、大学卒業後に米国を放浪していたときに、「清酒業は衰退産業だ」と言われて蔵元の血が騒ぎ、跡を継ぐために帰国した。体制を一新しようとしていた折に、東京農大醸造学科の卒業を控え、地元湘南で就職口を探していた5歳下の五十嵐哲朗さんと出会い、醸造担当として採用。湘南らしさをテーマに据え、「湘南ビール」は1996年に、「天青」は2000年に新しく設立した。湘南ボーイたちが醸しだす日本酒と地ビールは、爽やかな風を吹き込んでいる。
写真=自他ともに認める発酵オタクの杜氏・五十嵐哲郎さん。古い建物に緑が映える酒蔵で