・原処分庁が、請求人が取引先から軽種馬を購入する売買契約は、通謀虚偽表示により無効であるとし、請求人の課税仕入れに係る支払対価額の一部を認めない旨の更正処分。
・審判所は、通謀虚偽表示を行う十分な動機があったとまでいえないと判断し、原処分を取り消した。
原処分庁が、審査請求人が取引先の法人から軽種馬を購入する取引に係る売買契約は、通謀虚偽表示により無効であるとして、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額の一部を認めない旨の更正処分をした。これに対し、請求人は原処分庁の認定した事実には誤りがあるなどとして、原処分の一部の取消しを求めた。国税不服審判所は、売買契約は契約内容のとおり履行されており、また、請求人と法人との間に通謀虚偽表示を行う十分な動機があったとまでいえない上、これを基礎付ける証拠もないから通謀虚偽表示により無効であると認めることはできないと判断して、原処分を取り消した(令和2年5月19日付、公表裁決)。
【基礎事実】
請求人は、日本中央競馬会に個人馬主として登録し、所有する競走馬を出走させて賞金等を得る事業を継続的に行っている。なお、請求人はA国に住所を移し、非居住者となった。
H社は、化粧品、健康食品の企画、開発及び販売業務等を目的とする法人で、代表者はJが務めている。
H社は、K農業協同組合(K農協)およびL農業協同組合(以下、K農協と併せて「S農協等」)が、年に数回開催するオークションを通じて軽種馬を落札し、軽種馬を購入した(以下、H社のS農協等を通じた軽種馬に係る取引を「軽種馬取引」といい、このうち、H社のK農協を通じた軽種馬に係る取引を「K軽種馬取引」という)。
なお、K軽種馬取引に係る売買契約では、H社はK農協に対し、遅くともオークションの全日程終了日の翌日から10日以内に売買代金を支払う旨、当該軽種馬の引渡しは、売買代金の全額決済後、軽種馬の売主とH社が協議などして決定した日時及び場所において行う旨定めていた。
請求人は、H社から、軽種馬を購入した(以下、請求人とH社との間の当該軽種馬の各取引を「各取引」という)。
なお、各取引に係る売買契約では、請求人は、H社に対し、売買契約日から10日以内に売買代金を支払う旨、当該軽種馬の引渡しは、請求人とH社が協議して決定した日時及び場所において行う旨定めていた。
請求人は、M税務署長に対し、各課税期間の消費税及び地方消費税について、軽種馬に係る「各取引」の「契約金額(税込金額)」の各金額を、軽種馬の取得価額として課税仕入れに係る支払対価の額に計上し、仕入税額控除の額を算出した上で、消費税等の確定申告書に記載して、法定申告期限までに申告をした。
M税務署長は、N国税局所属の調査担当職員の調査に基づき、請求人の各課税期間の消費税等について、請求人はH社から軽種馬を取得したとしているが、実体はH社の名義を利用し、S農協等を通じて直接取得したものと認められるから、「軽種馬取引」の「購入金額(税込金額)」の各金額が、請求人の軽種馬に係る取得価額であるとして、仕入税額控除の額を計算し、消費税等の各更正処分をした。
また、調査に基づき、各取引に係る売買代金と軽種馬取引に係る売買代金との差額分に相当する各金額(各差額)を課税仕入れに係る支払対価の額に含めて過大に仕入税額控除の額を計算し各課税期間の消費税等の確定申告書を提出したことは、隠ぺい又は仮装に該当するとして、過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。
請求人は各更正処分の一部及び各賦課決定処分に不服があるとして、審査請求をした。
争点は、各差額は、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額に該当するか否か、また、請求人が仕入税額控除をしたことについて、隠ぺい又は仮装に該当する事実があるか否か。
【原処分庁の主張】
請求人がH社から軽種馬を購入する各取引に係る売買契約は、通謀虚偽表示により無効であり、実体は、請求人が軽種馬生産に関する農業協同組合を通じて直接軽種馬を購入したものである。このため、H社が農業協同組合から落札し購入した金額と、各取引に係る売買金額の差額分に相当する各差額は、請求人の課税仕入れに係る支払対価の額に該当しない。
【請求人の主張】
H社は、S農協等を通じて軽種馬を購入し、請求人もH社から軽種馬を購入しており、それぞれ購入に当たって代金決済も行っており、実体を伴う正当な取引である。また、差額を課税仕入れに係る支払対価の額に該当するとして仕入税額控除をしていたことについて、隠ぺい又は仮装の行為に該当する事実は一切ない。
【審判所の判断】
各取引に係る売買契約については、契約内容のとおり履行されており、また、請求人とH社との間に通謀虚偽表示を行う十分な動機があったとまでいえない上、これを基礎付ける証拠もないから、通謀虚偽表示により無効であると認めることはできない。したがって、各差額は課税仕入れに係る支払対価の額に該当するから、原処分庁の主張は採用できない。