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過去の連載「判決・裁決から考える 副業と税」税理士・有賀 美保子

第4回/会社員が通勤にも使用していた車を売却、他の所得との損益通算を認めず

2021年01月25日 税のしるべ 無料公開コンテンツ

 車は一人一台が当たり前の田舎で育った。近所のコンビニに行くという時も、ほんの300メートルぐらいの距離にもかかわらず、車を出してくれる。公共交通機関に頼らない田舎暮らしでは、自家用車は必須アイテムといえる。車生活を送っていると、一生のうちに何度か、車を乗り替えるタイミングが来る。乗っていた車を売却して、または下取りに出して、新車の支払いに充てる人は多い。

 所得税法では、会社員が通勤に使用していた車を売却した場合は、生活に通常必要な動産の譲渡に該当し、非課税とされる。一方、趣味やレジャー目的で使用していた車の売却は、50万円以上の譲渡益を手にした場合に申告が必要となる。もっとも、車の買取価格が購入時の価格を上回るケースは滅多にない。

 不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つの所得で生じた損失は他の黒字の所得と損益通算できる。ただし、損益通算の対象となる所得であっても、制限はある。生活に通常必要でない資産に係る所得の計算上、生じた赤字の金額については、損益通算の対象としない(所法69②)。

事例

 会社員が車を売却した場合の、その車が生活に通常必要な動産に当たるかどうか、損益通算できるか否かが争点となった事案がある。

 給与所得者である納税者は、通勤にも使用していた車の自損事故を起こし、3000円でスクラップ業者に売却をした。そこで納税者は、給料と車の譲渡損を損益通算し、税金を取り戻そうとしたが、税務署が認めなかったため最高裁まで争われた。

 裁判所は、車の使用範囲をレジャーのほか通勤及び勤務先における業務にまで及んでいるとした上で、レジャーの用に供することは、「生活に通常必要でない資産」に該当するとし、車が生活に通常必要なものとしてその用に供されたと見られるのは、通勤のため自宅から自宅の最寄り駅までの間において使用した場合のみであり、それは本事案の車の使用全体のうち僅かな割合を占めるにすぎないと認定した。

 そして、使用態様から「生活に通常必要でない資産」に該当するものと解するのが相当であるとし、譲渡損失が生じたとしても、「生活に通常必要でない資産」に係る所得の計算上生じた損失金額であることから、他の各種所得金額との損益通算は認められないと判示している。

 生活に通常必要な動産である場合には、譲渡所得は非課税となり、譲渡損失もなかったこととなる。他方、生活に通常必要でない動産である場合には、譲渡所得内での損益通算は可能であるが、競走馬等の一定の資産を除き、基本的にはほかの所得との損益通算は認められていない。つまり、納税者の車がどちらに該当しても、給与所得との損益通算はできないということになる。自動車は生活必需品だ、という声が上がりそうだが、税務上は問題とならない。

 高い買い物といえばマイホームがすぐに思いつくが、実は車の購入費もばかにならない。20歳から70歳まで車に乗れば、維持費も含めた車両費で、家が建つかもしれない。都心では、駐車場代が月に6万円というところもあると話したら、その金額で山が買えるといわれた。最近流行りのソロキャンパーの言葉であったが、山を買っても売却は難しく、山林の維持も大変である。世知辛い世の中になったと、皆口を揃えていう。

 (参考:最判平成2年3月23日)

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